再生プラスチックの話になると、必ずと言っていいほど出てくるのが「PIR」と「PCR」という2つの言葉です。どちらも再生材を指す用語ですが、中身はけっこう違います。それなのに現場では混同されがちで、見積もりや仕様書のやり取りで話が噛み合わない場面を何度も見てきました。
申し遅れました。水野拓真と申します。化学メーカーの樹脂部門で7年ほど営業と技術サポートを担当したあと、今は環境・リサイクル分野を中心に取材と執筆をしているフリーライターです。原料の調達から再生材の品質トラブル対応まで、樹脂の現場をひと通り経験してきました。
この記事では、PIRとPCRが何を指すのか、両者は何がどう違うのか、そしてなぜ今この区別が重要になっているのかを、専門用語をかみ砕きながら整理します。再生材を調達したい企業の担当者はもちろん、リサイクル業界に関心がある方や、就職・転職先としてこの分野を見ている方にも役立つ内容にしました。難しい化学の話は最小限にとどめます。安心して読み進めてください。
目次
プラスチックリサイクルの基礎知識|まず全体像から押さえる
PIRとPCRの違いに入る前に、プラスチックリサイクルの全体像を簡単に整理しておきます。ここが頭に入っていると、2つの言葉の位置づけがすっと理解できます。
日本の廃プラスチックは年769万トン、有効利用率は89%
まず数字から。一般社団法人プラスチック循環利用協会によると、2023年の日本国内の廃プラスチック総排出量は769万トン、そのうち有効利用された割合は89%でした。詳しいデータはプラスチック循環利用協会が公表しているマテリアルフロー図で確認できます。
ただ、この「有効利用89%」という数字、額面どおりに受け取ると誤解します。内訳を見ると景色が変わるからです。
- マテリアルリサイクル:22%
- ケミカルリサイクル:3%
- サーマルリサイクル(エネルギー回収):64%
89%のうち、実に64%は「サーマルリサイクル」、つまり燃やして熱エネルギーを回収する方法です。日本ではこれもリサイクルに数えていますが、海外では「焼却=リサイクルではない」と見なす国も多い。この感覚のズレは後の話につながるので、頭の片隅に置いておいてください。
マテリアル・ケミカル・サーマル、3つのリサイクルの違い
プラスチックのリサイクルは、大きく3つの方法に分かれます。表で整理します。
| 種類 | 中身 | わかりやすく言うと |
|---|---|---|
| マテリアルリサイクル | 廃プラを溶かして再び製品の原料にする | もう一度プラスチックとして使い回す |
| ケミカルリサイクル | 化学的に分解して原料(基礎化学品)レベルまで戻す | 一度バラして作り直す |
| サーマルリサイクル | 焼却して熱エネルギーを回収する | 燃やして電気や熱に変える |
環境負荷の小ささでいえば、マテリアル、ケミカル、サーマルの順です。プラスチックをプラスチックのまま生かすマテリアルリサイクルが、資源循環としては最も筋がいい。
そして、今回のテーマであるPIRとPCRは、このマテリアルリサイクルの世界の話です。「どこから出てきた廃プラを、もう一度原料にするのか」という、原料の出どころを区別する言葉だと考えてください。
PIR(ポストインダストリアルリサイクル)とは
PIRは「Post-Industrial Recycled(ポストインダストリアルリサイクル)」の略です。日本語にすると「産業由来の再生材」。工場の生産工程で出てくる廃材を原料にした再生プラスチックを指します。
工場で発生する「使用前」の廃材が原料
具体的には、こういうものがPIRの原料になります。
- 成形時に出るランナーやスプルー(不要部分)
- 規格外になった不良品やB級品
- 端材、切りくず、フィルムのトリム部分
ポイントは、これらが「消費者の手に渡る前」に発生した廃材だということ。だから「プレコンシューマー(消費前)材」と呼ばれることもあります。工場の中で完結する、いわば身内から出た廃材ですね。
PIRのメリットは品質の安定とトレースのしやすさ
樹脂営業をしていた立場から言うと、PIRは扱いやすい再生材です。理由はシンプルで、素性がはっきりしているから。
- どの工場の、どの製品の、どの工程から出たかが明確
- 1種類の樹脂だけで構成されていることが多く、混ざりものが少ない
- 屋内で発生・回収されるため、汚れや劣化が少ない
素材の出どころを追える(トレーサビリティが高い)うえに、品質のばらつきが小さい。バージン材(新品の樹脂)に近い感覚で使えるロットも珍しくありません。物性の予測が立てやすいので、設計者にも提案しやすい再生材です。
PIRの弱点は「環境貢献」としての見え方
一方で、PIRには弱点もあります。それは「環境への貢献度」という観点で、評価がやや控えめになりがちなこと。
工場から出る端材は、リサイクルという概念がなくても、もともと多くがライン内で再投入されたり、業者に引き取られたりしていました。「本来捨てられるはずだったゴミを救った」というストーリーが、PCRに比べると弱いわけです。だから、後述するエコマークなどの認証制度では、PIRよりPCRを高く評価する傾向があります。
品質では強い。けれど環境ストーリーでは一歩譲る。これがPIRの立ち位置です。
PCR(ポストコンシューマーリサイクル)とは
PCRは「Post-Consumer Recycled(ポストコンシューマーリサイクル)」の略。「消費後の再生材」という意味で、消費者が使い終えて排出した製品を回収し、原料化した再生プラスチックを指します。
消費者が使い終えた製品が原料
PCRの原料は、私たちの生活から出る使用済みプラスチックです。
- 飲み終えたペットボトル
- 使い終えた洗剤やシャンプーの容器
- 廃棄された家電や日用品のプラスチック部品
一度世の中に出て、役目を終えたものが戻ってくる。これがPCRです。回収ルートに乗り、選別され、洗浄され、再びペレット(粒状の原料)になって市場へ戻っていきます。
PCRのメリットは環境価値とブランド訴求力
PCRの最大の強みは、環境価値が一目でわかること。「捨てられるはずだった廃棄物を、もう一度製品にした」という物語が明確です。
この物語は、企業のブランディングと相性が抜群です。化粧品や日用品、アパレルのパッケージで「PCR材○%使用」と書かれているのを見たことがある人も多いはず。消費者に環境配慮の姿勢を直接アピールできるため、メーカーがあえてコストをかけてでもPCRを選ぶ動きが広がっています。
PCRの弱点は品質のばらつきと選別・洗浄の手間
ただ、PCRは扱いが難しい再生材でもあります。現場目線でいうと、ここがいちばん悩ましいところ。
- 出どころがバラバラで、複数の樹脂が混ざりやすい
- 屋外で使われたものは劣化や汚れ、異物混入のリスクがある
- 選別・洗浄に手間とコストがかかり、品質が安定しにくい
「環境価値は高いが、品質をそろえるのが大変」。これがPCRの宿命です。だからこそ、PCRを安定品質で供給できる業者には技術力が問われます。
PIRとPCRの違いを5つの視点で比較
ここまでの内容を、5つの視点で一覧にまとめます。迷ったらこの表に戻ってきてください。
| 比較の視点 | PIR(産業由来) | PCR(消費後由来) |
|---|---|---|
| 原料の出どころ | 工場の生産工程で出る廃材 | 消費者が使用後に排出した製品 |
| 品質の安定性 | 高い(素性が明確) | ばらつきやすい(要選別・洗浄) |
| 環境貢献の見え方 | 控えめ | 高い(廃棄物削減の物語が明確) |
| コスト | 比較的安定 | 選別・洗浄の負担で割高になりやすい |
| 認証・ブランド評価 | 標準的 | 優遇されやすい |
ざっくり言えば、PIRは「品質で勝負する再生材」、PCRは「環境価値で勝負する再生材」です。どちらが優れているという話ではなく、用途と目的で使い分けるもの。設計の安定性を重視するならPIR、環境訴求を前面に出したいならPCR、という具合です。
認証・規格での扱いの違い
PIRとPCRは、各種の認証制度や規格でも扱いが分かれます。代表的なのが、再生材の含有率や管理体制を第三者が認証する仕組みです。
たとえば日本のエコマークでは、消費後に回収されたPCR材のほうを重視する考え方が採られています。環境負荷低減への貢献が大きいと見なされているからです。同じ「再生材使用」でも、PCRかPIRかで認証上の価値が変わってくる。再生材をうたって製品を売りたい企業にとっては、この違いが効いてきます。
なぜ今、PCRの価値が高まっているのか
近年、業界全体でPCRへの注目が一気に高まっています。背景には、世界の見方の変化があります。
「サーマルはリサイクルに含めない」という国際的な視点
冒頭で触れた「有効利用89%のうち64%がサーマル」という話を思い出してください。日本では焼却による熱回収もリサイクルに数えますが、国際的には「焼却はCO2を出すのだからリサイクルではない」という立場が主流です。
この基準で見ると、日本の本当のリサイクル率はぐっと下がります。だからこそ、燃やさずにプラスチックをプラスチックとして循環させるマテリアルリサイクル、なかでも消費後の廃棄物を救うPCRの価値が、相対的に重みを増しているわけです。世界の物差しに合わせると、PCRこそが評価される再生材になります。
GRSなど第三者認証が果たす役割
PCRの価値が高まるほど、「本当にPCR材なのか」「どれくらい混ざっているのか」を客観的に示す仕組みが必要になります。そこで使われるのが、第三者によるリサイクル認証です。
代表的なものに、GRS(Global Recycled Standard)があります。2008年に策定され、現在はTextile Exchangeという国際的な非営利団体が管理している規格です。再生材を20%以上含む製品が認証の対象になり、製品にGRSのロゴを付けて販売するには再生材含有率50%以上が求められます。
GRSが優れているのは、再生材の含有率だけを見るのではない点です。原料がどこから来たかを追えるトレーサビリティ、製造時の化学物質管理、排水やエネルギーといった環境配慮、さらには労働環境などの社会的な側面まで、サプライチェーン全体を包括的にチェックします。GRSの概要は環境省の環境ラベル等データベースでも紹介されています。もともとは繊維分野で広がった規格ですが、今では再生プラスチック原料の信頼性を担保する基準としても使われています。
つまり、GRSのような認証を取得している再生材は、「環境価値が高いだけでなく、その価値が第三者に保証されている」ということ。調達する側にとっては、安心して採用できる材料の目印になります。
再生材を扱う企業をどう見極めるか|実務の視点
ここまで読んでいただくと、PIRとPCRの違い、そしてPCRの価値が高まっている理由が見えてきたと思います。最後に、実際に再生材を調達したり、リサイクル企業と付き合ったりするときの見極め方を、現場の感覚でお伝えします。
PIR・PCRの両方に対応できる企業は強い
再生材の調達先を選ぶとき、私が真っ先に見るのは「対応できる樹脂の幅」と「PIR・PCR両方を扱えるか」です。
- 扱える樹脂の種類が多いほど、いろいろなニーズに一括で応えられる
- PIRとPCRの両方を扱えれば、品質重視も環境価値重視も相談できる
- 廃材を「有価で買い取る」体制があると、排出側にもメリットがある
特に「廃プラを有価で買い取る」という姿勢は、その会社の技術力の裏返しです。きちんと選別・再生して売れる商品にできる自信がなければ、お金を払って廃材を引き取ることはできませんから。
一例を挙げると、群馬県太田市の日本保利化成株式会社は、工場由来のPIRも消費後のPCRも有価で買い取り、50種類以上の樹脂に対応して再生ペレットを製造している会社です。前述したGRS認証も取得しており、CO2排出量の削減効果を数値化して報告できる体制まで整えています。「資源が循環する社会を目指す」という理念を、認証や数値という形で裏づけている点に、実務家として好感を持ちました。同社の事業内容や将来性、働きやすさや職場環境まで具体的に知りたい人は、日本保利化成株式会社の実態をリサーチした記事に目を通しておくと、企業像がつかめます。
取引先・就職先として見るときのチェックポイント
再生材の供給元としてだけでなく、取引先や就職先としてリサイクル企業を見る場合も、チェックすべきポイントはそう変わりません。
- どんな樹脂・原料に対応しているか(対応の幅)
- PIR・PCRそれぞれの取り扱い実績があるか
- GRSなどの第三者認証を取得しているか
- 環境貢献を数値で示せるか(CO2削減量の報告など)
- 廃材を有価で買い取る技術力と仕組みがあるか
これらが揃っている企業は、技術と信頼の両面で地に足がついています。サステナビリティを掲げる会社は山ほどありますが、認証や数値という客観的な裏づけまで持っている会社は、まだそう多くありません。看板の言葉ではなく、こうした実態で判断するのが失敗しないコツです。
まとめ
PIRとPCRの違いを、最後にもう一度整理します。
- PIRは工場の生産工程で出る「使用前」の廃材が原料。品質が安定し、トレースしやすい
- PCRは消費者が使い終えた製品が原料。環境価値が高く、ブランド訴求に強いが品質管理が難しい
- 認証制度や国際的な評価では、廃棄物削減への貢献が大きいPCRが優遇される傾向にある
- 再生材の調達先や取引先を選ぶときは、対応樹脂の幅、PIR・PCR両対応、第三者認証、数値での環境貢献を確認する
PIRとPCRは、優劣ではなく役割の違いです。品質を取るか、環境価値を取るか。自社の目的に合わせて選び分ければいい。そして、その両方を高い技術で扱える企業こそが、これからの資源循環社会を支えていきます。再生材を検討するときは、ぜひこの記事の視点を持って、納得のいく選択をしてください。






